生きること、死ぬこと、それ以上のなにか・・・

このブログでは、音楽、なかでもクラシック作曲家である「バッハ」を中心に取り上げます。 また演奏家、CDについての批評も行います。 ちなみに私は指揮者のセルジュ・チェリビダッケに深く傾倒しております。

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翻訳について

翻訳について

カラマーゾフの兄弟 新潮文庫
(これは新潮文庫から出ていたドストエフスキー作「カラマーゾフ兄弟」です。今は表紙が変わってしまいましたが、昔は新潮文庫のドストエフスキー作品の表紙は全てこのデザインで、私はそれが好きでした。)

現在の表紙はこのようになっています。

カラマーゾフの兄弟〈上〉 (新潮文庫)カラマーゾフの兄弟〈上〉 (新潮文庫)
(1978/07)
ドストエフスキー

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日本語以外の言葉で書かれた本を読む場合、どうしても日本語に翻訳されたものを選びがちになります。
そこで問題となるのが、翻訳のレベルです。
例えば、文学の場合、ある程度の詩的表現が求められるでしょうし、
学術書の場合、徹底的な正確さが求められます。
実は翻訳のレベルというのは、非常に重要だということを、3つの例を挙げて、紹介させて頂きます。

今回は下記の3つを採り上げます。


1.アルチュール・ランボー作
「地獄の季節」

散文 フランス語


2.フョードル・ドストエフスキー作
「カラマーゾフの兄弟」

長編小説 ロシア語


3.ウィリアム・ブレイク作
「天使」 経験の歌より

幻想詩 英語



1.

ランボー全詩集 (ちくま文庫)ランボー全詩集 (ちくま文庫)
(1996/03)
アルチュール ランボー

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まずは、ランボーの「地獄の季節」から興味深い節を抜粋してみます。
原文のフランス語ではこのように書かれています。

Elle est retrouvee.
Quoi ? - l'Eternite.
C'est la mer allee
Avec le soleil.


7つの日本語訳


もう一度探し出しだぞ
何を? 永遠を。
それは、太陽と番った
海だ。
(堀口大學 訳)



また、見つかった、
何が、
永遠が、
海と溶け合う太陽が。
(小林秀雄 訳)



また見付かつた。
何がだ? 永遠。
去(い)つてしまつた海のことさあ
太陽もろとも去(い)つてしまつた。
(中原中也 訳)



とうとう見つかったよ。
何がさ? 永遠というもの。
没陽といっしょに、
去(い)ってしまった海のことだ。
(金子光晴 訳)



見つかったぞ!
何がだ?
永遠。
太陽にとろけた
海。
(粟津則雄 訳)



あれが見つかった
何が?
永遠。
太陽と溶けあった
海のことさ
(宇佐美斉 訳)



それが見つかった。
でしょうか? - 永遠。
それはなくなって海の
太陽と。
(google翻訳)


私はフランス語が分からないので、どれが最も原文に忠実な訳なのかは分かりません。

しかし、日本語として、最も美しく感じるのは、
②小林秀雄の訳です。
(小林秀雄さんの本業は評論家なのですが、非常に優れた功績を残しています。
私は氏の著作が大好きなので、いつかブログで採り上げるつもりです。)

①堀口大學の訳はシンプルでいながら、なにかグッとくるものがあります。
(もしかしたら、一番、原語に近い訳なのかもしれません。
堀口大學さんはフランス文学の日本受容にとって、カリスマ的な存在の人です。)

④金子光晴の訳も美しいですね。
③は中原中也好きの方にとっては堪らないものがあるでしょう。
(google翻訳はシャレでやってみたんですが、論外ですね。)

ゴダールの映画「気狂いピエロ」のこの詩が使われているラストシーン。
掛け値なしに感動的です。
(日本語字幕付き)




2.

カラマーゾフの兄弟1 (光文社古典新訳文庫)カラマーゾフの兄弟1 (光文社古典新訳文庫)
(2006/09/07)
ドストエフスキー

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続いて、ドストエフスキー「カラマーゾフの兄弟」より、プロとコントラ

原文は見つかりませんでした。

2つの日本語訳


俺が泣くのは絶望からじゃなく、自分の流した涙によって幸福になるからにすぎないんだよ。
自分の感動に酔うわけだ。
(原卓也 訳)



だから、おれが涙を流すにしても、絶望からじゃない、たんに自分の流した涙で幸福を味わいたいからにすぎないんだ。自分の感動に酔うってわけだ。
(亀山郁夫 訳)


私は圧倒的に、原卓也氏の翻訳の方が優れていると考えています。
この「カラマーゾフの兄弟」は長編小説なので、このような短いセンテンスだけを抽出しても、余り意味がないかも知れませんね。
(最近、亀山郁夫訳の「カラマーゾフの兄弟」が非常に売れましたが、あれを読んで物足りないと感じた人は、是非、原卓也訳の「カラマーゾフの兄弟」を読んでみて下さい。印象が全く異なります。)


3.
ブレイク詩集―無心の歌、経験の歌、天国と地獄との結婚 (平凡社ライブラリー)ブレイク詩集―無心の歌、経験の歌、天国と地獄との結婚 (平凡社ライブラリー)
(1995/10)
ウィリアム ブレイク

商品詳細を見る

最後に、イギリスの幻想詩人、ウィリアム・ブレイク。

「天使」 経験の歌より

これに関しては、ちょっと簡単に内容を書いてみます。

通常、ブレイクは天使を、不幸に虐げられたものを神の慈愛に導いてくれる者として扱います。
しかし、この詩においては、天使の存在は明らかにネガティヴに表現されています。
とまれ、天使自体がネガティヴであるのではありません。
夢の中とはいえ、天使を敬遠したいと感じている女の子の気持ちがネガティヴなのです。
女の子は、さらに積極的に天使に刃向かおうとまでします。
そして、そう思った瞬間、その行動の代償として必然的に、
女の子の頭は白髪になり、若さ、つまり純真さを失ってしまいます。

この基本的な内容を頭に入れて、下記の詩を読んでみて下さい。
そしてどのような意味なのか、改めて考えてみて下さい。
(詩という表現形態において、考えるという行為はときに無意味なことも多いですが
(詩を読む際最も重要なのは直感です。)、より深くその表現を感じることが出来ることもあります。)



原文の英語ではこのように書かれています。

---The Angel---

I dreamt a dream! What can it mean?
And that I was a maiden Queen
Guarded by an Angel mild:
Witless woe was ne'er beguiled!

And I wept both night and day,
And he wiped my tears away;
And I wept both day and night,
And hid from him my heart's delight.

So he took his wings, and fled;
Then the morn blushed rosy red.
I dried my tears, and armed my fears
With ten thousand shields and spears.

Soon my Angel came again;
I was armed, he came in vain;
For the time of youth was fled,
And grey hairs were on my head.


3つの日本語訳


私はひとつの夢を見た!その意味は何だろう。
私は未婚の女王で、
やさしい天使に守られていたのに、、
愚かな哀しみが紛れる時はなかった!

私は夜も昼も泣いた、
すると彼は私の涙をぬぐってくれた。
私は夜も昼も泣いていて
私の心の歓びを彼らから隠した。

そこで彼は翼に乗って逃げた。
やがて朝が薔薇の赤に恥じらった。
私は涙を乾かし私の恐怖に武装させた、
一万の楯と槍でもって。

そのうち天使がまたやって来た、
私は武装していたので、彼は来ても無駄だった。
というのは青春の時は過ぎ去り
私の頭は白髪になっていたから。
(松島正一 訳)



私は夢を見た、何のしるしかな、
私は未婚の女王様であり、
おとなしい天使にまもられながら、
たわいない悲しみを慰められようともせず、

ひるもよるも泣いていた、
天使は私の涙をぬぐってくれるけれど、
よるもひるも私は泣いていて、
心のよえおこびをおしかくした。

かくて 天使は飛び去ったが
次の朝がばら色にあからむ時、
私は涙を乾かし、怖れで身を鎧い、
一万の楯と槍とでまもった。

やがて天使はまた訪れたが、
私が武装していたので近よるすべもなかった。

そして私の若かった時はすぎ去り、
頭はしらがになった。
(土居光知 訳)



夢をわれ見き!何の夢?
われはやさしきみつかいに、
身をまもらるるきさき姫、
さるを憂の霧れじとは!

夜に日にわれの泣きければ
かれわがなみだ押しぬぐふ
日に夜にわれは泣きぬれて
みねのよろこび見せずけり

かれかなしみて飛び去りぬ。
いまあからひく朝にして、
われは泣きやみ、ちよろづの
武具におそれをつつみけり

みつかひはまた来しかども、
すべなし、われは鎧へる身。
青春のときとくすぎて
わが頭には白髪あり
(寿岳文章 訳)


この訳は①⇒②⇒③がそのまま、評価の順番です。
①は詩的表現も十全にある非常に美しく、かつ原語にもかなり忠実な訳になっています。
②も悪くはないのですが、①と比較すると少しおちるかな、といった印象です。
③はいくらなんでも表現が古すぎます。一時代前の日本語に精通していなければ、理解は難しいでしょう。


ちなみに、ウィリアム・ブレイクの書籍で、超絶的に素晴らしいものがあります。

Favorite Works of William Blake: Three Full-Color Books (Dover Thrift)Favorite Works of William Blake: Three Full-Color Books (Dover Thrift)
(1996/02/23)
William Blake

商品詳細を見る

ブレイクは詩人であると同時に、画家でもありました。
自身の詩集に、自身の挿絵を多々描いています。はっきり言って、異常な美しさです。
この本は「天国と地獄の結婚」「経験の歌」「無垢の歌」の3つの詩集が集められています。
ブレイクを読んでみたい人は、まず初めにこれを読む(鑑賞)べきです。非常にお薦めです。


<おまけ、ドストエフスキーあれこれ>

5大長編
もし順位をつけるなら、
悪霊>カラマーゾフ>白痴>未成年>罪と罰
ですね。

dos.jpg

カラマーゾフの兄弟、悪霊&短編集(英訳版)
dos3.jpg

ドストエフスキー関係の書籍が計24冊ありました。
dos comp




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  1. 2013/06/21(金) 17:11:41|
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